人民元下落開始

中国人民元レートの下落開始

~中国人民元の為替レートは、中期的に下落する~

中国経済のバブル崩壊の危険性については、ここ4、5年の間、度々、指摘されてきました。特に、バブル経済とその崩壊を体験した日本のビジネスマンやマスコミは、この観点から度々、中国情勢について評論してきました。

そして、2013年春ごろから、世界的にも大々的なニュースとなった大陸中国のシャドーバンキング(影の銀行)問題でしたが、何とか目先一番のピークと目された同年夏(理財商品の償還期限などが重なったため)を乗り越え、とりあえずは経済成長軌道を取り戻したかに見えます。

しかし、その実情はますます不良債権を積み上げる、「危機の先送り」スタイルでしのいでいるのが現状です(2013年9月19日に発表された大陸中国の不動産市況統計によれば、8月の主要70都市のうち、58都市で中古住宅価格が前月比上昇、温州など5都市では前月比下落、横ばいが7都市というデータでした。特に中国内でも経済先進地である浙江省温州では、2年前より既に不動産売り抜け合戦が激化しています)。今年1月末にも、山西省にある石炭会社が発行する社債購入に当てられた、巨大な理財商品の満期が訪れ、この償還にあたって、利益はおろか元本の返金まで危ぶまれましたが、政府系の不良債権処理会社によって元本のみ買い取られる形で、投資家には元本がそのまま返金されることで危機を回避できた形となりました。

実質的には政府による紙幣乱発、という形で、そのまま消失した資金分を補てんしただけに過ぎず、それはすなわち、市中に流れるマネー流通量を増やしたことを意味し、物価インフレ上昇として市民生活に跳ね返ってくる結果となります。簡単にいえば、一部の投資家の損失を、全国民になすり付ける形で広く浅く痛み分けした、という構図です。

中国とかかわりの深い当社では、常日頃から、中国市場のマクロ経済の動向から、市民や消費者のミクロレベルの動静を調査しておりますが、一般の大陸中国人の99%は、「これまで一度も物価下落、不動産価格の下落、そして人口減少の経験がなく、生まれてこれまで“物価と人口は上昇するもの“という現実しか知らない」という理由から、未だに投資目当て(将来的な値上がりを前提として)の不動産購入を進めており、一世帯3軒ぐらい保有しているのが中流家庭の上層レベルの平均的な姿となっています。他方、地方政府の高官たちの個人的意見として耳にした話では、こうした庶民的感覚とは大きく異なり、不動産価格は下落も上昇もない、現状キープのままだろう、という目算のようです。慌てて買いに走る必要もない、という姿勢でした。

中国全土では、未だにあちこちでマンション、オフィスビルの建設工事が進められており、途中でストップさせることができない状態であるため、とりあえず、着工案件に関しては完成まで見届けるしかないのが実情ですが、少なくとも新規案件の許可は下すべきでないのではないか、と痛切に感じております。大都市での住宅需要は未だに根強くあり、新規着工のマンションでも完売は可能でしょうが、事務所ビルに関しては完成後の入居テナントにめどが立っているのか強く疑問に思われます。もうすでに完成したビルやショッピングエリアにも、テナントが入らず、廃墟と化している物件も多く見受けられます(いわゆる、大都市圏周辺の郊外都市部が、特に悲惨)。

こうした不動産市場の暴走と崩壊を阻止すべく、中国政府は金融引き締めの動きを強めており、目下、中国国内の金融機関は、高金利をうたって預金資金を懸命に募り(期間限定の高金利定期預金キャンペーン、友人紹介キャンペーンなどなど)、自行の預金準備率を高めていこうという姿勢が鮮明なようです。VIP顧客など、一定額以上の預金者には、2013年7月後半から毎日のように、さらなる預金の斡旋、国債投資に関する広告メールが送信されてきているようです。

* 2013年9月末、中国人民銀行(中央銀行)が発表した最新データによると、2013年8月末時点の預金残高は43兆元(約688兆円)を突破し、過去最高を記録したそうです。普通預金と定期預金は、それぞれ16兆元、27兆元とのこと。国策的な金融引き締め(特に預金集め)が功を奏しているようです。

一方、土地や財産権の制限を加えられる一党独裁の社会主義国家中国では、他の民主国家のような自由経済による金融危機は起こらないという主張も度々出ていますが、大陸中国内だけに終始できる問題に対しては、政治的に十分対処可能かと思われます。すなわち、前述の石炭会社関連の理財商品買い上げに見られるように、破たんしそうな案件には、即座に、公的資金を注入して穴埋めが可能な点です。通常の資本主義国の場合は、先に運用母体の破たんが起こり、リスクを承諾した投資家がそのまま被害を受けます。そして忘れたころに、安値でファンド勢が買い上げていく、というのがパターンです。しかし、経済への国家関与の度合いが大きい大陸中国においては、危機が起こる前に「なかったこと」にできる強権を発令できますし、万が一、危機が起こっても、銀行ATMの停止、窓口機能の制限、不動産・各種の大型商取引の一時停止を強行すれば、マネー流動性を抑え込んで突発的&ドミノ的な経済崩壊を防ぐことができます。同時に、人々がパニックに陥らないように、即日、銀行窓口に現金の束を積み上げ、預金者の出金要求に片っ端から対応していけば、金融危機は封じ込めることができます。

ただし、危機未然対応ではインフレ上昇圧力へと跳ね返り、危機後対応では政策運営を司る共産党の信用が失墜します。さらに、危機対応時の強権発動により、国内向けにはこれで徐々に市民の混乱を鎮静化できるかもしれませんが、中国4大銀行はすでに世界の資産番付でも上位を占めるまでに存在感を高めており(2013年5月中旬に米ゴールドマンサックスが全持ち株を売却したことでニュースとなった中国工商銀行は世界資産番付一位)、こうした金融機関の海外での資金調達リスクが高まることで、世界中へ金融パニックが同時多発的に伝播されていく、という波及効果的な金融危機が世界を襲いかねず(ちょうど、小国キプロスへ多額資金を貸し付けた欧州銀行の問題が、ユーロ危機という巨大問題へ伝播したように)、中国危機はすなわち国際金融危機という図式が成り立つかと思われます。

また、2013年夏より大陸中国系の大手企業は香港内での銀行融資比率を高めており、大陸中国側の不良債権問題が、「香港」を通じた国際マーケットへの波及ルートをさらに拡大させてしまっているのが現状です。

中国大陸側の問題に視点を戻しますと、銀行前で紙幣を預金者に配っていくという強行措置は、過剰に信用創造された中で、現実として、銀行や市場に巨額のマネーサプライを実施することになり、それはすなわち、人民元の通貨安へと結びつくことは必至かと思われます。膨れ上がっている不動産価格や貸し出し債権分もこの紙幣乱発分で充当されていけば、シャドーバンキング問題も大部分を帳消しにできますが、これまで上昇一途であった通貨・人民元は長期的下落を運命づけられるとともに、高インフレが市民生活を襲うことになると推察されます。

これまで米国政府による人民元切り上げ圧力がありましたが、大量に米国債を保有する中国政府は、自国への資金還流を急ぐあまり、この米国債の売却に手をつけかねず、米国政府はこれを最も恐れているため、実質的には政治的な人民元切り上げ圧力を弱めざるを得ず、また、中国経済の不良債権問題への対処の必要性から、上記の背景を持つ人民元安も長期的に容認していく、可能性が高いかと思われます。

つまり、対米ドルで見た場合、今が中国元の最高値附近にある、と言えなくもありません。対ドル相場1ドル=6.06元が、中期的な最高値となりえます。

中国関連株や債券に関しては、先に指摘した金融危機対応による政府の非常事態的処置(口座凍結、大口決済取引の一時的停止措置など)の際は、大混乱を経験するかもしれませんが、今後、輸出主導型経済から国内消費経済へと舵を切る中で、一時的な金融調整の後、これらの金融商品はかなり長期にわたって上昇基調が続いていくものと予測できそうです。

なお、米国のQ3金融緩和策は今年夏にかけて出口を模索するでしょうが、ドル調達逼迫によるマネーショートで、東南アジア、南米、大陸中国のバブル崩壊が巻き起こり、ほぼすべての新興国経済の破たん危機を経て、米国をはじめとする先進諸国経済へも危機が伝播するに至り、米国は第四次金融緩和策(Q4)へと突入していくものと推察されます(2014年秋~)。

2014年の前半は少なくとも、米ドル供給が減っていくわけであり、南米や東南アジア、大陸中国の経済に大きなダメージを与えていくでしょうが、大陸中国政府の立場から言えば、理財商品デフォルトと不動産バブル崩壊の回避策として大量に増刷される人民元札と米ドルとの為替相場の維持に苦心させられることになるでしょう。

2015年以降に、米国が第四次量的緩和(Q4)を発令し、ドル札が再び、世界市場に大量供給されるまで持ちこたえれば、人民元相場も下落することはないでしょう。中国政府は現為替レートを維持したままで、大量の人民元札の乱発続行が可能となるわけで、これは中国バブルの崩壊の延命を可能とします。ですので、中国経済としては、米国のQ3とQ4の間の時期を、いかに崩壊の崖っぷちで粘り抜くかが勝負となりえます。

いずれにせよ、米国経済と世界経済の自立回復が鮮明になり、全世界的に金融緩和策が大勢となったとき、(つまり、米ドルのマネーサプライが本格的に減少し出したとき)、中国元の下落は必至となるでしょう。ただし、この中国元の下落は国内バブル問題への対処として正しい方向であり、人民元の下落がすなわち、中国経済の凋落を意味するということではありません。これはあくまでも、中国経済の成長・膨張過程の一調整局面であり、長期的には中国経済は拡大を続けていきます。人民元相場も、いったんの下落を見た後、長期的にはユーロに並ぶ世界第二位の通貨へとそのプレゼンスを高めることでしょう。大規模な調整が必要ですが、これを為替レートの緩やかな下落という形で軟着陸させられさえすれば、人民元や中国経済は長期的には安定した経済大国の地位を維持できるものと思われます。

NYウォールストリート金融資本集団をバックに持つ米国政府や、IMF等の海外圧力に屈することなく、中国なりのペースで為替管理を続け、緩やかに人民元安へ誘導していく、という中期的なスタンスを保持し続ければ、中国経済の大崩壊や大暴落は回避可能だと、当社では考えております。

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