– 非居住者口座の多国間情報交換制度がスタート –
これまで日本は、米国、英国、香港、BVIなど65か国・地域と租税条約を結んでいますが(2016年6月現在)、その内容は個別要請に基づく情報交換(時に自発的情報交換)に終始するもので、双方の情報を問答無用に開示し合うものではなく、あくまでもピンポイントな個別案件に関する要請に対応するという消極的な協力関係でした。
しかし現在、OCBC(経済協力開発機構)が主導し、すでに標準データベースの策定まで完了している(2016年3月)、『税務における金融口座の自動情報交換制度(Automatic Exchange of Financial Account Information in Taxmatters)』は、「毎年自動的に全口座情報を提供」されるという、これまでの条約や国境の概念を大きく変容させる内容になっています。
2016年に日本でもマイナンバー制度が実施され、日本政府における納税者番号(Tax Identification Number)が確定されました。着実に世界標準化のスキームが完成されつつあると言えます。
簡単に言えば、日本に住んでいる個人や法人が、香港やシンガポールなどの海外に銀行口座や投資口座、生命保険口座などを保有している場合、その金融機関が当該国の政府へ口座情報を報告し、そして、その政府が日本政府へそのまま自動的に引き渡す、というものです。
この制度は、米国市民の海外口座に対して、および、EU市民が有するスイス内口座に関して、既に運用が開始されています。
そのシステムが全世界規模が実施される、というのが今回のテーマなのですが、すでに各国が本制度への参加時期を表明しています。
そのいくつかの例をピックアップしてみました。
2017年9月に参加
韓国、英国、フランス、オランダ、南アフリカ など
2018年9月に参加
日本、香港、中国、マレーシア、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、ロシア、スイス、イスラエル など
日本を含む95ヵ国の国・地域が、2018年9月までに自動情報交換を開始することを表明しており、シンガポール、ブルネイ、ブラジルなども加入日決定の最終批准を待たれる段階です。
2016年5月12日に行われた調印式では、ロシアとイスラエルも参加表明され、目下(2016年6月現在)、82か国がその導入年を発表済となっています。
各金融機関(銀行、証券会社、保険会社、ブローカー、投資運用会社などを含む)ごとに当該国の非居住者を特定させた上、その国の税務当局へ一括報告させ、その国がまとめて協定各国へ口座情報データベースを引き渡す、というものなので、以下のような情報が交換されます。
【個人名義口座】
- 氏名
- 現住所(税務居住地として認定)
- パスポート番号
- 納税者番号(金融機関が把握していない場合は、掲載不要)
- 口座残高(各金融機関名ごとの口座番号も)
- 誕生日
- 利子・配当等の年間受取総額
- 金融商品の償還や売却による収益の情報
- 保険商品の場合は、時価、もしくは満期予定返金額、契約書面の金額
- その他金融商品の(年末時点の)評価額など
【法人名義口座(財団や信託を含む)】
- 正式な名称
- 法人登録番号(あれば納税者番号も)
- 登記国籍(本店所在地)
- 事務所拠点のある住所(税務居住地として認定)
- 大まかな業種
- 法人代表者の氏名および現住所(税務居住地として認定)、誕生日、パスポート番号(もしくは納税者番号)
* 特に、上の「業務内容」で、投資や資産管理目的、もしくは、特許や著作権、その他のロイヤリティーを受取る目的の法人に関しては、受益者特定の観点から重要項目とされる。 - 口座残高(各金融機関名ごとの口座番号も)
- 保険商品の場合は、時価、もしくは満期予定返金額、契約書面の金額
- 利子・配当等の年間受取総額
- 金融商品の償還や売却による収益の情報
- その他金融商品の(年末時点の)評価額など
* ただし、法人口座に関し、年末時点で残高25万米ドル以下のものは、情報精査の対象外と規定されています。最終的な規定は、当該国毎に独自判断が委ねられています。
* 調査が開始される年(日本や香港は2017年1月1日~)に閉鎖される口座も、情報交換の対象として取り扱われ、「2017年度内の閉鎖済口座」として、2018年9月に日本へ報告されます。
この口座情報の交換に関する事務作業は、完全に各金融機関に負担させられるもので、現在、香港の金融機関でも、ざわざわこのコンプライアンス部門を立ち上げて、その業務に邁進中です。
日本の金融庁も2015年度の税制改正で、国内に所在する金融機関から口座保有者の氏名、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等の情報を報告させる制度を導入しています。この制度は、来年2017年1月1日からスタートし、国内に所在する金融機関は、2017年末までの1年間の口座情報に関し、翌2018年4月30日までに初回報告を、所轄税務署長へ提出し、税務当局内で情報整理を進めた後、同年9月30日に、海外締約国との間で初回の情報交換がなされる、というスケジュールが発表されています。
個人名義口座の場合、一般レベルの口座(Lower Value Accounts)は、自社内の顧客情報データベース(過去の証明資料のみでOK)を基に、非居住者と思わしき口座情報を選定していくことになりますが、口座残高100万米ドル相当超(Higher Value Accounts)だと、再度の各種証明書類の確認や担当者の面談義務も課せられています。
この口座残高100万米ドル相当超のHigher Value Accountsに関しては、海外でも同様の規定があり、銀行担当者からの再面談と証明書類の再提出を打診されることになります。
もし、期間中に日本の居住者から非居住者になる場合、転出届出書を金融機関へも提出する必要が生じる(転出完了日の3か月以内)ことになります。
2016年春以降、香港でも個人口座の開設時には、「自身の納税国を宣誓する書類」にサインしなければならなくなっています。日本でも来年度より、全金融機関での口座開設で、この宣誓書が義務付けられる、ということです。かつ、海外でも税務居住国での納税者番号(日本人の場合は、マイナンバー)の提示も求められると考えられます。
2018年9月に、この情報交換スキームが開始すれば、各国の税務当局が注目するポイントは、以下の二つです。
- どうやって、その海外金融資産が形成されたのか??
(資産形成途上に日本居住であったのなら、日本で確定申告する必要があったものとみなされます) - 該当年に発生した金利や配当に関し、日本で合算申告をしているか??
(過去にも金利や配当の申告漏れがないか、確認を求めてくる可能性もあり)
* 2018年度末までに情報交換ネットワークに、未参加の国の例
タイ、フィリピン、カンボシア、ベトナム、モンゴル、スリランカ、エジプト、ヨルダン、ミャンマー、ペルー など
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